社会保険手続代行・保険給付に関する支援サイトです

社会保険の審査請求制度とは

社会保険の審査請求制度とは、特別の権利救済制度です。行政が不当な処分をした場合に、「行政不服審査法」により審査を要求することができますが、社会保険に関してはこの一般的な制度ではなく、健康保険法第189条のほか「社会保険審査官及び社会保険審査会法」の規定により、特別に「社会保険の審査請求制度」が設けられています。
特別に審査機関を設けている理由は、まず社会保険に対する審査申し立ての件数が多いこと、そのうえ内容が複雑多岐にわたり、専門性が高いということ、さらには、社会保険が被保険者やその家族などの生活安定を図ることを目的としているからです。不利益処分に対する救済は、被保険者が費用を負担することなく、簡単な手続きで、迅速かつ公正に行われることが必要とされたためです。
被保険者の資格や標準報酬、保険給付など、社会保険に関する決定に不服があるときは、その決定があったことを知った日から3月以内に、各地方厚生局の社会保険審査官に対して「審査請求」をすることができます。

では、実際にはどのような審査請求制度の利用があるのか、一例をあげてみます。

<傷病手当金>

5年前にその病気で傷病手当金を受給したことがあったが、再び就労できなくなったので傷病手当金を請求したところ、法定支給期間を超えた請求であるとして不支給となった。そのため医師の診断書(意見書)を添えて社会保険審査官に審査請求をし、その結果、以前の病気とは別傷病であるとして傷病手当金を支給するのが妥当と判断された。

<傷病手当金>

悪性リンパ腫により化学療法を受け、血液毒性より回復し、完全緩解を得たため、具体的な治療がなく経過観察のみでよい状態であるとして、健康保険協会(保険者)は労務不能とは認められないとして、不支給処分をした。主治医の意見書「治療には相当の体力あるいは免疫力の消費があり、その回復には相当(個人差があり一概には決められないが、3~6か月を要する)期間が必要である。」との見解を添えて再審査請求したところ、請求人の場合については労務不能と認めるのが相当であるとして容認された例もあります。

※ 傷病手当金-社会保険審査会裁決例

主な裁決例はこちらから社会保険審査会裁決例

「社会保険審査官」と「社会保険審査会」の二審制度

次に、社会保険の審査制度は、社会保険審査官と社会保険審査会の二審制度になっています。

◇ 社会保険審査官

審査請求の申し立てがあると、社会保険審査官が審査に着手します。社会保険審査官は健康保険や年金制度に精通した厚生労働省の職員で構成されており、各地方厚生局に常駐し、厚生労働大臣が任命しています。
社会保険審査官の決定までには約2~3ヶ月かかるのが通常です。決定内容には「容認」「棄却」「却下」があり「容認」は請求人の不服申立てが認められることを指します。「棄却」は請求人の不服申立てが認められないという場合です。そして「却下」は、審理に入る前に審査請求を受理できないという意味になります。

◇ 社会保険審査会

一審の社会保険審査官の決定について不服がある場合は、厚生労働省内に設置されている社会保険審査会に再審査請求することになります。また保険料の賦課、徴収、滞納処分に関する不服申し立てについては、直接この社会保険審査会にすることになります。社会保険審査会は、委員長と5人の委員によって構成されています。委員は元裁判所の判事や元独立行政法人国立病院機構病院長、社会保険労務士、民間企業出身といった人達で、国会の同意を得て厚生労働大臣によって任命されます。
審議は3人の委員による合議により裁決されます。審理は通常公開で行われ、再審査請求人や代理人は、意見を述べることができます。「容認」「棄却」「却下」の裁決まで8か月程度を要しています。この社会保険審査会の裁決に不服がある場合、さらなる不服申し立ては裁判所へ提訴ということになります。

◇ 関東信越厚生局審査請求状況 ◇

◇ 社会保険審査会裁決状況 ◇

最後に、審査請求をするにあたって、社会保険の制度は複雑で、わかりにくいことが多くあります。健康保険協会や日本年金機構の言い分に納得がいかないからといってすぐに審査請求するのではなく、まずは、受け取ろうとしている保険給付についての説明を保険者から十分に聞くことが必要です。
いずれにせよ、社会保険給付に関し理解する意思を持つとともに、疑問や不服な点については納得いくまで、その処分を行った保険者(健康保険協会や日本年金機構など)に聞くことが最も大切であるといえます。